エリアーデ『聖と俗』 エリアーデ聖と俗のポイント
        (冒頭の数字はページ数を表わす)



  3 人間が聖なるものを知るのは,それがみずから顕われるからであり……
  5 前近代的社会にとって,聖なるものとは力であり,究極的にはとりも直さず実在     そのもの……聖なる力は実在と永遠性と造成力とを同時に意味する。
 13 聖体示現は混沌たる空間の均質性を破り,絶対的な<固定点>,<中心>(すな     わち秩序)を造る=世界創造 (要約)
 18 聖なる空間には聖体示現,すなわち聖なるものの突然の出現が結びついており,     それによって特定の領域が周囲の宇宙から切り離され,質的な変化をこうむる。
 21 彼らの領域は<世界>(精確に言えば<われらの世界>)であり,コスモス(宇     宙)である。それ以外はもはやコスモスではなく,一種の<別の世界>であり,     幽霊や魔神や<よそ者>(それは魔神や死者の霊と同じものと考えられる)の棲     む,見知らぬ混沌の空間である。
 22 或る世界の浄化はコスモス化を意味する。それは神による天地創造を再現する行     為だから。(要約)
 23 未知の,異質の,未占領(しばしば<わが一族>がまだ占拠していない意味)の     領域は,なお<カオス(混沌)>の漂えるあやかしの状態を成している。人間は     それを占領することにより,とりわけそこに定住することにより,人間はそれを     象徴的に−−祭式による宇宙創造の再現を通して−−コスモス(宇宙)に変える。
 25 未知の領域の宇宙化(Kosmisierung)は常に或る浄化である。……空間に秩序を     与える者は,神々の模範的仕事を再現する。
 26 或る地域に居を定めることは,その地域を浄めることを意味する。
 29 聖体示現が地平の突破をもたらした所では,同時に上(神界)あるいは下(下界,     〜 死者の世界)へ向かう<入口>が成立している。三つの宇宙平面−−地,天     および下界−−は互いに交流する。この交流は……世界の柱(axia mundi)とい     う形象によって表現される。
    (a)聖なる場所は空間の均質性における裂け目を表わす。     (b)この裂け目は(天から地上へ[およびその逆],地上から下界へというよ       うに),一つの宇宙領域から他の宇宙領域への移行を可能にするところの<       入口>によって象徴される。     (c)天との交流は,柱(宇宙の柱,universalis columna),梯子(ヤコブの       梯子),山,樹,蔓等,種々の形象によって表現され得るが,それらはみな       世界の軸(axia mundi)に関係する。     (d)この世界軸の周囲に<世界>(われらの世界)が広がる。したがって,こ       の軸は<中央に>,すなわち<地の臍部>にあり,それは世界の中心である。
 32 中心の象徴−(a)聖都と聖殿は世界の中心にある。(b)寺院は宇宙の山の模     型であって,地上と天界との間のかの絆をなす。(c)寺院の台座は地下深く下     界の領域まで達する。
(33 バビロンの塔や聖殿は<天と地の絆>などと呼ばれている。ジグラットとは本来     宇宙の山であって,その七つの階は七層の天を表わし,それを昇ることによって     祭官は宇宙の頂きに到達する。(要約))
 34 <カオス(混沌)なる水>=未だ形態を成さぬ宇宙的質量を象徴すると同時に,     死の世界−したがって生に先行し,また死の後に来る一切をも象徴する。……創     造に先立つカオス(混沌)の水は,同時に死による無形への還没,あやかしの存     在への帰入を象徴する。われらの<コスモス(宇宙)>がその上にあるところの     下界は,われらのコスモスの限界の彼方を支配する<カオス>に照応する。
 38 宇宙が中心から展開し,四方に向かって広がるのとちょうど同じように,村落も     また四ツ辻の周囲に成立する。…新しい村を作る場合にまず二つの道が直角に交     わる自然の交差点を人は求める。…村の中央にはしばしば空地が残されるが,そ     こには後に礼拝堂が建てられ,その屋根は天を具現する。(39 聖なる小屋の     創建は宇宙創造を再現する)
 40 <われらの世界>はコスモス(宇宙)である。それゆえ,これをカオス(混沌)     に変えようとする外からのあらゆる襲撃に脅かされる。<われらの世界>は神々     の模範的作業たる宇宙創造に倣って形成されている。それゆえにこれを襲撃する     敵は,神々の抗争者,悪魔,なかんずく悪魔の首領,太初神々に征服された大蛇     の祖と同一視される。…都市の破壊はすべてカオスへの転落であり,侵入者に対     する勝利はすべて龍(すなわちカオス)に対する神の模範的勝利の再現である。
(41 龍は海の怪物,太初の蛇の形象であり,宇宙の水,闇,夜および死−ようするに     形なき潜在者,未だ何の<形態>をも成さぬ一切を象徴する。)
 41 世界は年ごとに新たに創造されるべきもの…或る都市が外敵に対して勝利を収め     るごとに,闇と死とカオス(混沌)に対する神の勝利が繰り返されるのである。      居住地や都市の防禦施設は,恐らく初めは魔術的目的のためであったに違いな     い。というのも濠とか迷路とか塁壁とかの施設は,人間の侵入よりもむしろ魔神     や死者の霊を防ぐために作られたと思われるからである。(以下,例が挙げられ     る)
(52 世界が全体として新たに浄められるのは寺院の力による。世界がどれほど不浄で     あろうとも,それは絶えず聖殿の神聖性によって浄められる。)
 56 聖なる空間の体得は<世界創造>を可能にする。…聖なるものの出現は,形なく     漂う俗なる空間の中に一つの固定点を,<混沌>の中に<中心>を投入するばか     りでなく,同時に地平の突破を起こし,それによって宇宙段階の間(地上と天界     の間)の交流を樹立し,一つの存在様式から他の存在様式への存在論的移行を可     能にする。均質な俗空間のなかのこのような裂目によって創られる<中心>から,     人は超世界的なものとの交流に入ることを得,それによって世界を創建する。
(64 歳は四つの方位を経過する運行)
 68 (新年に<清祓>を行なうことは)一定の時間区分が終熄してまた別の期間が始     まるだけではなく,同時に過ぎ去った年,経過した時間の滅却が問題になってい     るからである。それゆえ清祓祭儀の意味は個人および全共同体の罪咎を焼却し,     絶滅することにあるので,単なる<清祓>ではない。
 69 火を消すこと,死者の魂の帰来,社会的階級の混合,性愛の自由,乱痴気騒ぎ−     これらは皆コスモス(宇宙)のカオス(混沌)への帰入を象徴する。
(144 自然=<魔力>)
(170 人間は生まれただけでは未だ完全ではない。人間は二度目に,それも精神的に     出生せねばならない。彼は不完全な胎児的状態から完全な成熟した状態へ移行す     ることによって始めて全き人となるのである。一言で言えば,人間存在は一連の     移行祭儀によって,つまり相継ぐ加入式を通してその完成に達する。)
173 すべて歩みは<巡礼>,世界の中心への遍歴の象徴たりうるからである。<家>     の所有が世界における確固たる立場の選択を意味するとすれば,家を放棄する巡     礼者を苦行者は,この世界を捨て,世界のなかにいかなる立場をももつまいとす     る努力を,彼らの<前進>,彼らの絶えざる位置の変化によって表現する。
177 本当の意味で人間のなるためには,この最初の(自然的)生から死滅して,宗教     的であり同時に文化的である,より高次の生に生まれ変わらねばならない。      ……人は<自然的>人間であることを乗り越え,或る意味でそれを脱却したと     きに始めて完全な人間になるということであり,その理由は加入式の本質が何よ     りも逆説的な,超自然的な,死と復活あるいは再生の体験にあるからである。第     二に,試練と,象徴的な死および復活を含む加入式の儀礼は,神々,文明をもた     らす英雄,あるいは神話的祖先によって創始されたことである。したがってそれ     は超人間的な起源をもち,その遂行によって新入者は超人間的,神的振舞いを模     倣する。
179 森林,密林,闇は彼岸,<下界>を象徴する。
(180 加入式における拷問・肉体的苦痛は死を象徴する。死はあらゆる神秘的再生の     第一条件である=死と復活)
181 死の意味は,浄化されていない俗なる存在様式を乗り越えること。(要約)
188 聖なる知,さらには一般に知恵は加入式の成果。
189 (ブッダは<新しい人間>を分娩させる。)ブッダは,いかにすれば人間が世俗     の人間的存在様式−繋縛と無知−から死去して,自由,至福,無拘束のニルヴァ     ーナ[涅槃]に再生することができるかという,その方途を説いた。


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